【中国科学院】ブラックホール同士の衝突!!重力波が暴いた「第三の天体」の影

サイエンス

2015年、人類は初めて「重力波」を直接捉えることに成功しました。これは、ブラックホールのような超高密度の天体が合体する際に生じる、時空のさざなみです。以来、私たちは数多くの重力波を観測し、宇宙への理解を深めてきました。

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※重力波とは? ブラックホールのような非常に重いものが激しく動いた時に、時空が歪んでさざなみのように宇宙を伝わっていく現象のことです。池に石を投げた時に水面で波が広がるのと同じように、宇宙の「水面」が揺れるイメージです。この「時空の揺れ」を地球で捉えることで、遥か彼方の天体の出来事を知ることができます。

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しかし、そこには大きな謎が残されていました。それは「合体するブラックホールのペアは、どうやって決まるのか?」という問いです。

これまでの主な説は、2つの星のペアがぶつかるというものでした。しかし、今回、中国の研究チームが発表した分析結果は、第三の可能性を強く示唆しています。なんと、三つの星が互いに相互作用をして、合体している可能性が高いということです。

イメージ図 実際の天体の縮尺とは異なります。

重力波をとらえた!!!

今回の研究の主役は、太陽の約23倍の質量のブラックホールと、約2.6倍の謎の天体の合体によって生じた重力波です。この極端にアンバランスな合体は、これまでの理論では説明が難しく、天文学者たちを悩ませました。

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研究チームは、この「変わり者」の重力波データに何か隠されているのではないかと考え、最新の分析手法で再調査を行いました。


重力波に残された「ドップラー効果」

救急車が近づいてくるときはサイレンの音が高く聞こえ、遠ざかるときは低く聞こえますよね。これは「ドップラー効果」と呼ばれる現象です。

研究チームは、重力波にも同様のことが起こりうると考えました。もし、合体する星のペアのすぐ近くに「第三の天体」が存在すれば、その重力に引かれてペアは加速しながら運動します。この加速運動が、地球に届く重力波の周波数に、わずかな「ドップラー効果」として刻まれるはずなのです。

ここは難しいのでわかりやすく説明しましょう。

例えば救急車が自分の家の前をゆっくり走ってもあまりドップラー効果を感じることはありません。

しかし、時速100kmで通り過ぎていくと、はっきりとドップラー効果を感じるはずです。

逆に言えば、ドップラー効果を感じれば(観測できれば)、救急車は速いスピードで通り過ぎているということになります。

このように合体する星が、第三の星の重力によって加速しているかどうか、ドップラー効果が起きているかどうかということを観測することで判定することができるのです。

そこでチームは、AIも活用し、最新の手法を用いて、第三の天体が必要なのかを考えました。


「第三の天体」説が有力!

その結果は驚くべきものでした。

なんと、「第三の天体」が存在するモデルの方が、存在しないモデルに比べて、観測された重力波データを58倍も上手く説明できることが判明したのです。これは統計的に見て、「第三の天体の影響があった」と強く確信できるレベルの証拠です。

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つまり、二つの星はは、第三の星の周りを公転しながら、合体した可能性が高いことがわかりました。

そしてこのような問題は三体問題と呼ばれています。

※三体問題とは? 互いに重力で引き合う3つの天体(星など)の未来の動きを予測しようとする問題です。2つの天体の動きは正確に計算できますが、3つになった途端、ごく一部の特殊な例を除いて厳密に解くことはできなくなります。その結果、天体の軌道は予測不可能なほど複雑になります。

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三体問題に関する有名な超面白い小説もあります。今までのSF小説とは一線を画した、素晴らしい小説です。ネトフリで映像化もされています。

Amazon.co.jp: 三体 (ハヤカワ文庫SF) : 劉 慈欣, 大森 望, 光吉 さくら, ワン チャイ, 立原 透耶: 本

また宇宙の謎が一つ解かれた

今回の発見は、ブラックホール合体の起源を解き明かすための、非常に重要な一歩です。これは、重力波の観測によって、宇宙の謎をまた解き明かしました。

今後、観測精度がさらに向上すれば、このような「第三の天体」の影を持つ天体の衝突がもっと見つかるかもしれません。私たちは、宇宙の謎を解く新たな手がかりを手に入れたのです。

論文情報

Indication for a Compact Object Next to a LIGO–Virgo Binary Black Hole Merger

Shu-Cheng Yang, Wen-Biao Han, Hiromichi Tagawa, Song Li, and Chen Zhang

Published 2025 July 21 • © 2025. The Author(s). Published by the American Astronomical Society.
The Astrophysical Journal LettersVolume 988Number 2

Citation Shu-Cheng Yang et al 2025 ApJL 988 L41

DOI 10.3847/2041-8213/adeaad

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