「宇宙の始まりってどうなっていたんだろう?」
「ブラックホールの中心はどうなってるの?」
こんな疑問を一度は考えたことがあるかもしれません。人類が長い間頭を悩ませていたこの壮大な謎に、東北大研究チームが独自の路線で挑みました。
論文によると、研究チームが、「トポロジカル物質」という不思議な物質の中を走る電子を、世界で初めて動画として撮影することに成功したのです。
しかし、一体これがどうして、宇宙の謎に繋がるのでしょうか?
トポロジカル物質の「端」と「内部」を走る電子の波の… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-
※トポロジカル物質とは 内部は電気がまったく流れない「絶縁体」なのに、その表面や端だけは電気が抵抗ゼロでスイスイ流れる「金属」になる、という二つの顔を持つ不思議な物質です。
宇宙を「シミュレーション」するという新発想
これまで宇宙の謎を解明するには、巨大な望遠鏡で遠くの星を観測したり、巨大な加速器で物質をぶつけたりする方法が主流でした。しかし、宇宙が生まれた瞬間の超高エネルギー状態や、ブラックホールの内部といった「極限状態」を地球上で再現するのは、ほぼ不可能です。

そこで近年、科学者たちは全く新しいアプローチに注目しています。それが「宇宙のシミュレーター実験」です。
これは、本物の宇宙ではなく、宇宙と「同じ数式」で記述できる物理現象を実験室で人工的に作り出し、それを調べることで、本物の宇宙の性質を探ろうというもの。
テレビゲームで現実のスポーツをシミュレーションするのに少し似ているかもしれませんね。

主役は「トポロジカル物質」
今回の研究で、宇宙のシミュレーターの役割を担ったのが「トポロジカル物質」です。
研究チームは、この物質を絶対零度(約-273℃)近くまで冷やし、非常に強い磁石を近づけることで、「分数量子ホール状態」という特殊な状態を作り出しました。実はこの状態が、宇宙の性質をシミュレーションするのにうってつけなのです。

世界初!電子の波の動画撮影に成功
研究チームは、この特殊な状態の物質に電気的な刺激を与え、端と内部の両方を伝わる電子の波を発生させました。
そして、レーザー光を使ってその様子を観察する「時空マッピング」という独自技術を駆使し、1兆分の1秒という超高速で動く電子の波の様子を、動画として捉えることに成功したのです。
これは、今まで誰も見ることができなかった、物質の内部で起こるミクロな現象を、鮮明に可視化した画期的な成果です。
「ブレーンワールド仮説」の検証も夢じゃない?
なぜこの実験が宇宙の謎に繋がるのでしょうか?
物理学の世界には、「私たちの3次元宇宙は、実はもっと高次元の時空に浮かぶ『膜(ブレーン)』のようなものではないか」という「ブレーンワールド仮説」というものがあります。
今回の実験で使われたトポロジカル物質は、電気が流れる1次元の「端(エッジ)」と、電気が流れない2次元の「内部(バルク)」を持っています。この構造が、1次元低い世界(私たちの宇宙)が高次元の世界(バルク)に存在するという、ブレーンワールド仮説の構造とそっくりなのです。

つまり、この物質の中の電子の波の振る舞いを詳しく調べることで、ブレーンワールド仮説のような、これまで検証が不可能とされてきた壮大な理論を実験的にシミュレーションできる可能性が出てきたのです。
今回の成功は、宇宙の根源的な謎を解き明かすための、全く新しい扉を開いたと言えるでしょう。今後の研究によって、私たちの宇宙観を覆すような発見が、日本の研究室から生まれるかもしれません。
【論文情報】
タイトル:Electrically induced bulk and edge excitations in the fractional
quantum Hall regime
著 者:Quentin France, Yunhyeon Jeong, Akinori Kamiyama, Takaaki
Mano, Ken-ichi Sasaki, Masahiro Hotta, and Go Yusa*
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 教授 遊佐剛
掲載誌 :Physical Review Letters
DOI
:10.1103/4bp5-9ryg
URL
:https://doi.org/10.1103/4bp5-9ryg
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